4月に花伝社から『マンガの「超」リアリズム』という本を出します。マンガ評論の書籍は2冊目になります。連載当時から反響があって、連載をしていた雑誌の編集の方から書籍化を強くすすめていただき、花伝社での出版の運びとなりました。
これは教育誌「人間と教育」に約5年間連載していた「マンガばっかり読んでちゃいけません!」がベースです。
この連載をまとめたものを2016年に文学フリマに同人誌として出させてもらいましたが、さらに全体に加筆・補正を加え、なおかつ「ユリイカ」「星灯」などに書いた文章をいれました。
主な目次は次の通りです。
- 大人と幼児が同時に楽しめるマンガはあるか?
- いわさきちひろはどう批判されたか
- 「ダメ人間マンガ」はなぜ増えているのか?
- 「スポ根」マンガは死んだのか?
- 「ヤンキーマンガ」と「an・an」の接点は?
- 「気持ち悪い」「グロイ」という『はだしのゲン』の読み方の強さ
- 『ONE PIECE』はなぜつまらないのか
- エロマンガは規制されるべきか?
- 少女マンガはエロマンガよりも「有害」か
- なぜ女性向けエロマンガで強姦シーンがあるのか?
- 『このマンガがすごい! 2015 』第1位のマンガを読む
- 「マンガ家になりたい」という子どもを待ち受けているもの
- 戦争を楽しむマンガと戦争の悲惨さを描くマンガはどこが違うのか(上)
- 戦争を楽しむマンガと戦争の悲惨さを描くマンガはどこが違うのか(下)
- 鶴見俊輔は『サザエさん』をどう論じたか
- その美少女の中身はおっさん、もしくはオタク男子である
- 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』は「道徳教材」たるか
- 『この世界の片隅に』は「反戦マンガ」か
- 『この世界の片隅に』みたいに戦争を描かないとダメなのか?
- 東堂太郎のように一人でモノを言おう
もともと雑誌連載時には、「オタクの親が子育てでどんなふうにマンガと接するのか」ということを問題意識で書いていました。
絵本と子育てについては山のように文献があるのですが、マンガとのつきあいについては図書館や書店に行ってもほとんど出会うことができませんでした。手探りでつきあい方を考えるしかなかったのです。*1
その中で芽生えた問題意識を整理すると、「正しい価値を使える教育という行為と、心がギラギラするような興奮を覚えるサブカルチャーはどう両立するのか?」ということが一つ。くそつまらないタテマエなんか誰も聞きたくないわけです。だからマンガを読みたい。じゃあ、両者は対立するものなのか、ということ。
二つ目は、ギラギラするような欲望や興奮や本音を扱うサブカルチャーすなわちマンガを子育てにそのまま持ち込めるのかということ。もっとくだけていうと、エロとか暴力とかそういうものを描くマンガは子どもから遠ざけるべきなのか、読ませるべきなのか。あるいはどう距離をとるべきなのか。
三つ目は、子育てしているお母さんや教育の現場にいる教師に対して、じゃあエロマンガを一緒に読んでみましょうか、ヤンキーマンガを見てみましょうか、ということをやっています。
この3つのことをだいたい扱った本になったのですが、「この3つを貫くものはマンガが描き出している豊穣なリアルじゃないんでしょうか」と考えてこういうタイトルになったのです。
ですから、子育てしている親御さん・教育関係者の方たち、できればマンガとは縁遠くなっているような人たちに一度読んでもらいたいなと思っていますし、他方で、この間ネットなどで大いに問題になってきた「ポリティカル・コレクトネスと性表現」のような問題も扱っていますので、ぜひオタクの皆さんにも読んでほしいと思っています。
表紙は、「ケンタウロスを打つヘラクレス」です。非常にクールに仕上げていただきました。デザイナーの方に深く感謝です。
ぜひご一読ください。
*1:特に子育て初期の頃は。