おまΩこ『リアル風俗嬢日記 彼氏の命令でヘルス始めました』


 ファッションヘルス(店舗型の個室で性サービスを行う風俗営業。性交=本番は禁止…って建て前はどこでも禁止だけど)に勤めるアラサー女性のコミックエッセイである。
 告発や哀調でもなく、過剰な快楽や欲望の強調でもなく、セックスワークをする労働者としての苦手なこと、「働きがい」、いやなこと、工夫や努力を、ニュートラルな視線で伝える。
 ぼくはkindleで読んだのだが短い3冊を次々買って、何度も読んでしまった。面白いんだもの。


 1巻は入店の経緯を描くのだが、実は「ご主人様」に奉仕するためのお金を貢ぐために、「ご主人様」の命令で風俗に入った(サブタイトルにあるとおり「彼氏の命令でヘルス始めました」のである)。さっき「ニュートラルな視線で」と本作を紹介したけど、このくだりは異様。複数の女性が「ご主人様」に金と体で貢いでいるという構図に、「一体どうしてそんな事態になってんの…」と疑問がわきあがる。わきあげるけど、どうしてこういう関係ができあがったのかはほとんど説明されず、関係の異常さだけが浮かび上がるのである。(この関係は清算される。)


 2巻がこの作品の本領。
 恋人ができたとき、テクを封じてしまう話。
 イケメンの客にかぎっての勘違いが多く、へたくそで乱暴。
 よがっていることを演技だと思われる話。
 AVを見るのは好きだが、男優が女性の股間をいじる描写がものすごく痛そうだと感情移入してしまう話。
 「エッセイ」として、縦横に語っている巻だ。
 セックスワークを描く作品には、多彩な次元がある。
 読み手の純粋にエロや欲望を掻き立てるものから、まったく逆に現場の凄惨な部分を抉出するもの、男性の脳内の風俗像をデフォルメや美化するもの……まさに本作の2巻は「随想」で、自分が性労働をする現場で感じていることを素直に描き、そしてそれが伝わる簡素な線で表現するので、読んでいるぼくは、気持ちが過剰にエロや、反対にシリアスな告発に傾くことがない。自由な、軽めの気持ちを伝えられている気分になるのである。

 
 3巻のラストで描かれる、

風俗は結局は接客とサービスの仕事です
でも人と人との体温がダイレクトに触れ合う場所

というナレーションとともに、「またね」「すごく幸せだったよ」「ありがとう」という言葉をまとめて

こんな一言が
何より嬉しかったり
やりがいになったりするんです

と書き付けていることを「風俗を美化する欺瞞」だといえるだろうか。
 ぼくは行ったこともないし、知識上もくわしくもないが、それでもこの作品が描き出すエッセイとしての自由さは「本当の気持ち」を伝えて、作者なりに実感しているセックスワークの「やりがい」を表現しているという、本当らしさがある。説得的なのだ。
 「ご主人様」の拘束や命令がなくなった後も、この女性が3年も風俗を続けているという事実は、このやりがいの吐露は少なくともその内面での真実だということはできるかもしれない。


 ところで、正常位(っぽい)で組んでいるコマがたくさんあるし、クリトリスだけでなく膣でも気持ちよくなっていったという記述があるんだけど、「本番」がないはずなのに、ヘルスの性的労働だけでこういうことはあるの?