川崎悟司『マンガ古生物学 ハルキゲニたんと行く地球生命5億年の旅』


マンガ古生物学 (ハルキゲニたんと行く地球生命5億年の旅) 地球誕生から恐竜滅亡までを100ページ足らず、しかもそれをマンガで解説するという無謀な企画。
 小学4年生の娘が「読んでほしい」と言ってきたので、絵本のようにして、いっしょにページを眺めて、ぼくが声を出して読む。
 初めから、もしくは全部読むんじゃなくて、第6話「ペルム紀 新たな繁殖戦略」の5ページだけを読む。


 言葉は大人にとってはやさしいが、子どもにとっても果たしてそうなのかは単純ではない。例えばこうである。

「家族単位で行動をともにする動物は、ディイクトドンがはじめてかもしれません 快適で安全な、この場所で子育てをしているのですね やはり哺乳類の祖先ですね。母親がしっかり母乳を与えています」
「かなり過保護ね」
「そうですね。育ちやすい環境と親の世話で、確実に子孫を残す戦略なのであります 逆にマンボウのように3億個という大量の卵を産んで、運よく生き残る子がいればヨシ、とする戦略もあります ディイクトドンは当時では類を見ない、子どもを徹底して保護し、生存率を高めた動物であります」(本書p.44-45)


 どうだろうか。小学4年生にわかるかな? と思うのではなかろうか。
 娘の反応はどうだったか。
 娘は、これを聞いて、マンボウが3億個の卵を産む話を最近知ったので、読んでる途中で口をさしはさんで、自分が知っている知識をしゃべり出した。


「なんか99.9……で9がいくつも並ぶくらいの確率で食べられてオトナになれないらしいよ」


 そこで、ぼくは「マンボウは3億個産むけども、全然面倒を見ずに海の中に子どもを垂れ流しにして、どんどん他の魚に食われてもいいけど1匹か2匹だけでも生きのこりゃいい、ってしている。だけどディイクトドンとか哺乳類とかは子どもを大事に大事に保護して確実にオトナにさせる」と補足する。
 娘は納得する。
 この場合、娘はこの本の解説を読んで「なんとなく」わかるのだが、ぼくが補足した点、「全然面倒を見ずに海の中に子どもを垂れ流しにして」というイメージを添えてやると、ディイクトドンとマンボウの対称性が、より明確になったようである。
 そんな感じ。
 小学生が読んで難しいこともあるけど、「なんとなくわかる」「だいたいわかる」、というふうに読み進められるのが大事。


 「これ、誰向けなのかなあ…。受験生とかじゃないし、子ども向けでもないし…。オトナでもこんなの読みたいのはホントにピンポイントじゃないかなあ」とぼくがつぶやいていたら、娘から「お父さん、表紙に書いてあるじゃん」とたしなめられた。なるほど、「小学生から大人まで」とはっきり書いてある。
 そして、5ページを読み上げられて、
「ここで『ハルキゲニたん』が『あ、この本、小学生はもちろん、中学生から大人まで楽しんでもらえちゃうよ〜〜!』ってもっと詳しく言ってるんだよ?」
とさらにツッコミをされた。
 うぅ、そうであった。
 小学生は「もちろん」なのである。
 実際、娘はこの本を最近ときどき手に取って読んでいる。

小4の娘にとってどこが面白いのか

 どこが面白いのかインタビューしてみると、解説に出てくる2人(匹?)がいいのだそうだ。
「『ハルキゲニたん』が、今っぽい言葉でしゃべるのが、なんかね、親しみやすい感じ」
 最初に地球がどうやってできたのかを紹介するページがあるのだが、初期の地球に岩石が衝突しまくって地球が形成される姿を見ながら「ハルキゲニたん」が「えっ!? 大丈夫?」とか「ほんとうに なかの人、大丈夫?」とツッコミを入れているのを可笑しそうに読んでいた。



 あと、もう一人の「あの麻呂カリスン」は、18ページで、実際の地球史におけるアノマロカリスという当時の凶暴な頂点捕食者を紹介するときに、あわてているし、翻弄されているんだけども、「コイツ、自分が紹介されているのに、他人事みたいに紹介してるし、そしてこれが自分であることを一言も触れないのか、なんかウケる」と述べていた。


 ぼくが読んだ時には、白亜紀翼竜、ニクトサウルスの生物デザインとしてありえなさが笑えた。娘も「ト……トサカが!」とか「どんだけのアピールだよ」という「ハルキゲニたん」のリアクションを笑っていた。


 作者、川崎悟司の本は、他にもいくつか手にとって見た。
 もともとは単独の絵が評判を呼んだ人らしいが、コマで割るマンガにして簡単な解説をつけた、本書のような形式がこの人には一番映えるのではないかと思った。古生物が生きて動いてる感覚(しかもややユーモラスに)、オトナが知りたい「大ざっぱな、しかし学校ではあまり習わなかった知識についてのおしゃべり」を的確に表現できるからである。

自然科学啓蒙書・マンガは誰に向けて書かれているのか?

 ぼくが先ほど「これは誰向け?」という疑問を持ったのは、自然科学の啓蒙書がそのコーナーに行けば花盛りで、最近も僕は『元素に恋して マンガで出会う不思議なelementsの世界』(創元社)を読んだからである。

※もともとはサイエンスチャンネル「メンデレーエフの奇妙な棚」のマンガ版
elements〜メンデレーエフの奇妙な棚〜 (4)元素を照らす光〜電気分解〜 - YouTube elements〜メンデレーエフの奇妙な棚〜 (4)元素を照らす光〜電気分解〜 - YouTube


 この本は、セーラー服の少女が怪しげな骨董屋に出入りして、そのたびに元素の解説を受けるマンガなのだが、受験勉強用として足りないことが多すぎるし、かといって子ども向けには難しすぎるのでは、という、本書『マンガ古生物学』とまったく同じ感想を抱いたのである。


 例えば、アルミニウムを解説する章では、アルミニウム精製には大量の電気が必要だったから、19世紀ごろまでは貴重な金属扱いされていて、ナポレオン3世がアルミの食器で国賓をもてなしたとか、アルミはさびやすい(酸化しやすい)のに、なぜあっという間に酸化アルミニウムにならないの? という話が書かれている。


 ただの雑学じゃん、と思うのだが、そもそも読んでいて面白いから仕方ないし、雑学も含めて元素を並べて基礎知識を書いていると、それなりの「元素」観が得られるのである。
 学校時代、本当に理科など理数系科目全般が嫌いだったぼくは、まともな自然観を形成せずに大人になってしまった。
 そういう大人が雑学を通して自然観を鍛え直す、というのが、こうした「わかりやすい科学啓蒙書」の役割なのだろう。