公営住宅の自治会はなぜ共益費を集めるのか

 東洋経済オンラインで、『PTAをけっこうラクにたのしくする本』などの著書がありPTA問題にくわしい大塚玲子さんをインタビュアーにして、ぼくがPTAと町内会問題の「共通性」などをテーマとするインタビューに答えた記事がアップされています。
 ぜひごらんください。
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 町内会・自治会がらみで最近気になったのは、こちらの記事だった。
共益費未納、団地で送電停止寸前 京都・久御山、自治会対立 : 京都新聞 共益費未納、団地で送電停止寸前 京都・久御山、自治会対立 : 京都新聞


 総会での決議を得て自治会長の報酬が月額10万円になったことをきっかけに、自治会費や共益費の値上げがおこり、それに腹を立てた一部の住民が共益費を未納にする対応に出て、泥沼化しているというものだった。


 ここでは、公営住宅における自治会費と共益費が出てくる。
 両者は本来まったく別のものである。

自治会費と共益費

 拙著『“町内会”は義務ですか?』でも書いたとおり、自治会(=町内会)への加入は任意である。義務ではない。拙著で紹介した2005年の最高裁での判決は、まさに公営住宅における共益費と自治会費の支払いをめぐる争いに対して下されたもので、そこでははっきりと自治会は「権利能力のない社団であり、いわゆる強制加入団体でもなく」と書かれている。自治会への加入・退会は自由だし、退会すれば自治会費は払わなくても良い。*1
 これに対して、共益費は、共用部分の電気代や水道代などだから、契約して居住した人は家賃同様、必ず支払わねばならない。変動があるために家賃と区分されているだけで、事実上家賃のようなものである。
 だから、自治会費と共益費は全然別の性格のものなのである。
 記事を読むと、「自治会費を上げる代わりに共益費を上げた」ような対応を自治会がしたように読めるのだが、もしそうだとすれば無茶な話である。ただ、おそらくは「いやいやそんなことはしてませんよ。たまたま共益費を上げただけです」というふうに形式上は別のものになってるんだろうなあ…。いずれにせよ、記事だけではよくわからんが。

なぜ共益費を自治体が集めないのか

 ここまで読むと、「ん? なんで公営住宅なのに、共益費を自治会が集めてるの? 公営住宅なんだから、自治体(ここでは京都府)が集めりゃいいじゃん」と思うかもしれない。
 たとえば、UR(旧公団、独立行政法人都市再生機構)の団地では、共益費はURが集めている。自治会が集めたりはしない。
 これはぼくも初めよくわからなかった。どうして自治体が集めないのかと。
 自治体の担当者に聞いてみた。それによると、こうであった。
 まず、ぼくの住む市の自治体の担当者は、公営住宅法第20条をあげた。

事業主体は、公営住宅の使用に関し、その入居者から家賃及び敷金を除くほか、権利金その他の金品を徴収し、又はその入居者に不当な義務を課することができない。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO193.html


 この条文があるために、自治体は家賃・敷金以外には「金品を徴収」できないのだという。
 しかし法律で禁止されているからできないのだろうか?
 そうだとすれば記事にあるように、

自治体が徴収する例は京都市などで一部ある


ということはどうなるのか。
 実際に徴収している自治体に話を聞いてみた。
 これは四国のある県なのだが、共益費を自治会徴収から、県による徴収に切りかえた団地があるという。
 この県では条例の中に共益費にあたるものを入居者が負担することをうたっているのだが、最近条例を改正して、次のような条文を追加して盛りこんだ。

知事は、県営住宅の良好な居住環境の確保その他やむを得ない事情により特に必要があると認めるときは、前項第3号に掲げる費用〔「共同施設並びにエレベーター、給水施設及び汚水処理施設の使用並びに維持及び管理に要する費用」。いわゆる共益費のこと――引用者注〕を入居者から徴収することができる。

 あれ? では公営住宅法第20条はどうなるのか。家賃と敷金以外は金品は徴収できないのではないのか。
 その県の担当者によると、

共益費を徴収することについては、公営住宅法第20条に家賃等以外の金品徴収等の禁止が定められているが、同法の「逐条解説」によれば、共益費や駐車場などの共同施設についての費用を徴収することまでを禁止しているものではないと解されている。現に京都府大阪府、神戸市、京都市及び高知市では条例、規則等の整備を行ったうえで、家賃等に併せて徴収している。

のだという。つまりグレーゾーン……というか、その気になれば自治体が集めてもいいんだよ、というものとして解釈できますよ、ということなのだ。ぼくの住む市では「その気になっていない」。この県では「その気になっている」という違いなのである。


なぜ自治会が共益費を集めるのか

 それにしても、本来、自治体が集めてもよさそうなもんだろ、と思う。
 なぜ自治会が集めることが本来的になったのか。
 これは、ぼくの住む市の担当者につっこんで聞いてみた。
 そうすると、「自治会が集めた方が安いからで、住民にとってもトクだからです」と答えた。記事でも「低廉な家賃の公営住宅には自治会による徴収が合理的」という京都府の見解を紹介している。
 電気代などだけみれば誰が集めようと同じではないかと思えるだろう。なぜなら、電気代や水道代は事業会社に渡す「預かり金」でしかないのだから。しかし、共益費は電気代や水道代だけではない。たとえば、共用の庭部分の草取りやその処理の費用などが入ってくる。URは共用部分の掃除については業者に委託し、共益費から払っている。これに対して公営住宅では、自治会で当番を決めて団地の草むしりなどをしている。住民の労役が代わりをしてるのである。このような費用を住民が自治的に決めることによって、安く抑えることができる(もしくは高くすることができる)。


 こうして、公営住宅では自治会が共益費の管理をまかされることになり、そこに相当自由な裁量も入り込むし、巨大な権限をもつことになる。
 いや、別にそれ自体が悪いわけじゃないよ。民主的にやれば、それでけっこうなことだし、それで低廉に済むっていうんだから。

本当は共益費分もあわせて「低廉」化する責任が自治体にあるのでは

 ただ、ぼくとしては釈然としないものはある。
 というのは、「草むしりを自分たちでやれば安く済むでしょ?」というのは一見住民のための理屈ではあるけども、本来は、住民に転嫁するのではなく、その費用も含めて住居費を自治体側が負担すべきものではないのか。その一番大事なところを隠して、あたかも住民側のメリットであるかのように装っているだけではないのか。


 公営住宅とは

国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする(公営住宅法第1条)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S26/S26HO193.html

のであるから、「低廉な家賃」とはまさか「家賃だけが低ければよく、敷金も共益費もバカ高くてよい」というわけではなかろう。「低廉な家賃」とは「低廉な住居費」であるはずであって、共益費部分は家賃同様に低廉におさえられ、所得に応じて公的に決められるべきだ。

徐々に自治体へ移管を

 ぼくは本来的には、共益費は、自治体が集めるようにしたほうがいいと思う。その分もふくめて住居費を低廉に抑え、応能的にわりふる責任が自治体にあるからと思うからである。
 公営住宅ではなく、URの団地自治会でつくる公団自治協では、UR側が集めた共益費にたいして、公開と住民の関与を要求している。ぼくの団地でも、放置自転車撤去や防犯カメラなどを要求し、そこの費用を共益費で出させている。*2
 義務的な費用である共益費と、任意の費用である自治会費がいっしょくたになっていることは混乱を生む原因になる。長年の経緯があるから、すぐそこに変わるのが現実的ではないだろうが、機会があれば切り替えていくほうがよい。
 前述の四国のある県に話を聞くと、高齢化などで団地自治会を維持することが困難になってきたところで、「共益費は県が集めてほしい」という声があがるようである。記事では自治会側が府側に共益費を徴収するように求めているが、条例改正をして一文を盛り込み、トラブルや申し出があった団地から徐々に切り替えていくのが現実的ではないだろうか。

*1:団地に入るさいに、自治会への加入をセットの契約として義務づけ、自治会退会が契約の解除と同義であるくらい強い契約を結ばされる場合の問題はあるが、これは別の機会に論じたい。

*2:なお、防犯カメラそのものの是非や、自転車の撤去費用は本来共益費で出すべきではないとする議論もある。