安倍政権が出した安全保障関連の11の法案について、その本質をぼくも「戦争法案」だと思っているので、以後「戦争法案」と呼んでいく。
国会では華々しく論戦が行われているが、地方議会ではどうだろうか。
4月のいっせい地方選挙では「戦争立法反対」と熱心に訴えて当選したものの、一般的に反対を議場で演説して終わり、という議員もいたりする。
それでいいのだろうか。
戦争法案は、地方自治体に深くかかわっているにもかかわらず、そのことを明らかにする論戦が果たして、いま全国で開かれている6月定例議会で行われているのだろうか。
ぼくなりに戦争法案と自治体のかかわりについて、考えたことをここに記しておきたい。
重要影響事態法案と自治体
一つは、周辺事態法が「重要影響事態法」にかわり、これが戦争法案の中に入っているということだ。
周辺事態法は、「周辺事態」つまり、日本への武力攻撃はないけども、放っておけば日本への武力攻撃を招きかねないとされる事態である。この法律が制定された背景には90年代半ばの朝鮮半島危機や台湾をめぐる米中の緊張などがあり、朝鮮戦争や台湾紛争などで日本が「兵站」の役割を担えるようにすることが目的だった。
周辺事態法では、周辺事態での米軍の後方支援、それを支援する自衛隊の活動などが定められ、自治体については第9条で次のように定められた。
(国以外の者による協力等)
第九条 関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる。
この「協力」は果たして強制なのか、拒否できるのか――当時大きな問題となって、知事会なども「はっきりさせろ」という趣旨の意見をあげたほどだった。政府は「解説」(『周辺事態安全確保法第9条(地方公共団体・民間の協力)の解説』)を発表し、これが強制ではないということで落ち着いた。
しかし「解説」を読み、その協力の中身をみると、空港や港湾などの利用をはじめ、具体的にはかなり広い範囲の協力が求められていることがわかる。
協力の内容については、事態毎に異なるものであり、予め具体的に確定される性格のものではなく、以下のものに限られないが、例えば次のような例が想定される。
○地方公共団体の管理する港湾の施設の使用
例えば、自衛隊艦船又は米軍艦船が、地方公共団体の管理する港湾に入港し、係船岸壁等の港湾施設を使用しようとする場合に、施設の使用に際しての許可(港湾法第34条において準用される第12条に基づき、地方公共団体の条例で定められる)について協力を求めること等が想定される。
このような協力の求めがなされたとき、港湾管理者は、求めがあったことを前提として、港湾法及び条例に基づき、許可権限を適切に行使することが期待される。
競合する民間船舶に対して既に使用を許可している場合には、港湾管理者は、これを強制的に排除することを求められるものではないが、国、港湾管理者及び民間船舶の3者間で、それぞれの意向を踏まえつつ、調整を行うことはあり得る。
その調整状況を踏まえ、国が、既に使用許可を得ている民間船社又は競合する許可申請を行っている民間船社に対して、使用内容の変更等について、第9条第2項に基づく協力の依頼を行うこともあり得る。
○地方公共団体の管理する空港の施設の使用
例えば、自衛隊航空機又は米軍機が、地方公共団体の管理する空港に離着陸しようとする場合に、施設の使用に際しての権限行使(航空法第54条の2に基づき、地方公共団体の条例で定められる)について協力を求めること等が想定される。
このような協力の求めがなされたとき、空港管理者は、求めがあったことを前提として、航空法及び条例に基づき、許可権限等を適切に行使することが期待される。
競合する民間航空機に対して既に使用を認めている場合には、空港管理者は、これを強制的に排除することを求められるものではないが、国、空港管理者及び民間航空機の3者間で、それぞれの意向を踏まえつつ、調整を行うことはあり得る。
その調整状況を踏まえ、国が、既に使用を認められている民間航空会社等に対して、使用内容の変更等について、第9条第2項に基づく協力の依頼を行うこともあり得る。
○建物、設備等の安全等を確保するための許認可
例えば、国が燃料の貯蔵所を新設しようとする場合に、消防法第11条に基づく危険物貯蔵所の設置許可について協力を求めること等が想定される。
なお、火薬類取締法上の火薬庫の設置許可については、一般には地方公共団体の長の権限であるが、自衛隊(防衛施設庁を含む)が設置しようとする場合においては通商産業大臣の承認を求めることとされており(火薬類取締法第12条、自衛隊法第106条第2項、自衛隊法施行令第127条)、協力要請の問題とはならない。
また、この他、建築基準法等に基づく許認可について協力を求めることが想定される。
なお、車両制限令については、車両制限令第14条及び車両の通行の許可の手続等を定める省令第4条に該当する米軍の車両及び自衛隊の車両は適用除外となるため、車両制限令に規定する制限値を超える車両の通行に関し必要となる道路法第47条の2の許可については、これらの車両につき協力を求めることは想定されない。
○消防法上の救急搬送
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2000/syuhen/9zyou.html
例えば、米軍、自衛隊、避難民、救出された邦人の中の傷病者で、緊急に搬送することが必要である者に関して、消防法に基づく救急搬送を行うことについて協力を求めること等が想定される。(なお、当然ながら、米軍、自衛隊の傷病者については、一義的には米軍、自衛隊により対応されるべきものである。)
以上はその一部である。
内閣府に問い合わせたら、この「解説」は更新がなく、協力の具体的な中身はこれが現在も生きているとのことであった。
今回の戦争法案で、「周辺事態法」は「重要影響事態法」に変わる。
地理的な制約がなくなり、地球の裏側でおきている事態、たとえば中東やアフリカで起きていることについても「重要影響事態」だとされれば、協力が求められることになる。
存立危機事態と自治体
二つ目は、「存立危機事態」で自治体の協力がやはり求められることである。
ややこしい話なのだが、「重要影響事態」と「存立危機事態」は違う。
重要影響事態は放っておくと日本への武力攻撃をまねきかねないとされる事態で、たとえば朝鮮半島で米軍と北朝鮮が戦争を始めた、というような事態である。日本への武力攻撃はないけども、米軍基地のある日本にはこれから攻撃があるかもね、というようなケースだ。
存立危機事態は「国民の存立が脅かされるような事態」であるが、この定義だけ聞いてもよくわからないだろう。要は集団的自衛権を使うために設けられたもので、「日本には攻撃がなさそうだけども、アメリカの戦争を助っ人しなければならない事態のうち、日本国民の利益に死活的にかかわってくるようなケース」というのをなんとかひねり出そうとして生み出された、ムリムリな官僚的カテゴリーなのである。政府があげるのは、中東での米軍の戦争によって海峡が封鎖されて石油がとだえてしまいかねないようなケースだ。
この場合、日本への武力攻撃は放っておいてもありそうもない。しかし、国民の「存立」にかかわるので、集団的自衛権を行使して、米軍を助けるというわけである。
さて、この「存立危機事態」について、自治体がどんな協力をするのかということについては、戦争法案には具体的な定めがない。
戦争法案のもとになった日米の合意――「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)には「D.日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」について他のA〜Cにある「施設の使用」という項目がない。
http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/shishin_20150427j.html
そこで共産党の穀田恵二議員が衆院の委員会で質問した。すると政府(外務省)は「地方公共団体や民間の協力が得られる場合にはそういう場面がありえる」と答えたのである。
穀田氏は、新ガイドラインで日本が集団的自衛権を行使する事態(存立危機事態)の「後方支援」に、民間空港・港湾を含む施設の利用も含まれるかと質問。外務省の鈴木秀生大臣官房参事官は「地方公共団体や民間の協力が得られる場合にはそういう場面がありえる」と明言しました。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-06-10/2015061004_02_1.html
全国で95の空港と無数の全国の港湾が具体的な名前がリストとしてあげられた。記事にはないが、ぼくが見たリストによると、福岡では福岡空港や博多港などが入っている。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2015-06-02/2015060202_04_1.html
ぼくはこの2つの問題、つまり重要影響事態と存立危機事態のどちらのケースにおいても、もし自治体が協力を求められたらどうするのか、と各地方議会で問題を(首長に)投げかけることができると考える。
そして、問題の本質は、このような重要影響事態や存立危機事態が、米軍の先制攻撃による戦争、つまり米軍側の無法な戦争であり、侵略戦争で開始されるケースの場合、とりわけ深刻な問題となるということだ。
米軍が先制攻撃戦略を持っていることはすでに知られた事実である。それは国連憲章違反となる。
実際に先制攻撃戦争は行われてきた。グレナダ、パナマ、リビアへのアメリカの攻撃は国連総会で非難決議があげられている。
日本はこれら決議には棄権したり反対したりしている。志位和夫が明らかにしたように戦後のアメリカの戦争にたいして、日本は一度もそれを違法だとしたことはないのである。
したがって、もしアメリカが無法な先制攻撃を始めた結果「重要影響事態」「存立危機事態」となったとしても、その都道府県なり区市町村は、「協力」するのだろうか、ということこそ問われねばならない。
もし自治体の首長が「そのときに考える」と述べたなら、アメリカの無法な戦争でも場合によっては協力する、ということを表明したに等しい。
政府は
国連憲章上、武力攻撃の発生が自衛権の発動の前提となることから、仮にある国家がなんら武力攻撃をうけていないにもかかわらず、違法な武力の行使を行うことなどは、国際法上認められない行為を行っていることなるものであり、わが国がそのような国を支援することはありません。(安倍首相、2015年5月26日衆院本会議)
とのべているので、この論法を使う可能性があるが、それこそ戦後一度も米国の戦争に反対したことがない日本政府にその判断はできないと反論することができるだろう。
あと、「審議中の法案なので国会の審議を見守る」と言い逃れることもあり得るだろう。その場合には、現行の周辺事態法についての態度(米国が無法な戦争を起こした場合でも協力するかどうか)を問う設問を一つまぜておくべきである。
日本にとって「いまそこにある具体的な危険」というのは、自衛隊をなくすのかどうかというような話ではなくて、アメリカの戦争に日本が巻き込まれるかどうか、しかもアメリカの先制攻撃のような無法な戦争に巻き込まれるかどうかということである。もっといえば、日米同盟の結果、日本がアメリカの戦争に組み込まれて殺し、殺される関係に入るかどうかという問題である。