思い出の本


ふとした折りに浮かぶ、思い出の中の本の名前……


小林栄三『コワレンコ「日本共産党(概史)」批判 歴史的な事実の抹殺と歪曲』。


いやー。これだね。
まず「コワレンコ」。
イワン・コワレンコ。
イワン・イワノビッチ・コワレンコ。
ソ連共産党国際部日本課長。
だれだよ、そいつって感じをドーンとまずは持ってくる漢っぷり。


そしてそいつの書いた『日本共産党(概史)』。
読んだことも聞いたこともねーわ。
今で言えば例えば「『永遠の0』批判」とか書けばだよ、
「ああ、アレね」とかなるじゃん。
そういう色気ゼロの感じがゾクゾクする。
しかも「(概史)」。


当該本の「業務用」っぽさを集中的に表現しているのがこの
「(概史)」
である。
「ふとした折りに浮かぶ」というのは誇張でもなんでもなく、
とくに「コワレンコ」というのと、この「(概史)」が
フラッシュバックする。
どうかすると声に出して言っていたりする。
「カッコガイシ」。
声に出して読みたい本のタイトル。
これと双璧をなすのが、
荒堀広『総評の末路と階級的ナショナルセンター』だ。


そして「批判」で落とす。
国際問題で売られたケンカは、黙っていねえぞコラ
みたいな感じで生真面目に日本共産党が批判したわけだが、
個人的には、それを本にして売ったというのが、
またクるのである。
書簡とか送っとくだけにしたら、とか、
機関誌で連載でもいいじゃん、っていう
ナヨっとしたむきには一瞥も与えず、
新書で売り出す豪儀さ。


さらにサブタイトルの「歴史的な事実の抹殺と歪曲」は、
機能美といっていいほどのストレートさがある。
『犬は吠えても歴史は進む』のような
「洗練」を気取った、しかし微妙なタイトルよりは
ある意味清々しい。


なぜそれが思い出の本なのか。
実は中身をほとんど覚えていない。
覚えていないのに、80年代に青春をすごした身としては、
いかにも80年代だと思わざるをえないのである。
出たのは1990年だけど。