結局大企業の税負担は重いのか軽いのか

 城繁幸共産党にかみついている。

共産党という名の貧困ビジネス - Joe's Labohttp://blog.goo.ne.jp/jyoshige/e/141640c37beb7daf90fab2f6f00329c7

 もともと共産党ソニーとか住友化学といった大企業の実際の法人税負担を問題にしたのは、消費税論議があったからだ。

法人税 「40%は高い」といいながら実は…ソニー12% 住友化学16% - しんぶん赤旗http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-24/2010062401_01_1.html

そもそもどういう議論の流れで出てきた試算か

 「消費税上げるよ」(民主・自民)→「それは法人税減税の財源だろ」(共産)という流れで「でも法人税高いじゃん」という論点が出てくるからである。もう少しいうと、まあ仮に消費税増税法人税減税の穴埋めだったとして、社会保障財政再建の財源はどこからもってくればいいのか、という議論になるからだ。

 経団連やそのとりまきたちは、「法人税は税率が高いんだよ」と主張しているのに、「いや実際には課税ベースが狭いから、大企業の税負担は表面的な税率ほどでもないんだよ」と共産党は言いたかったのだろう。

 そういう流れに突然割って入ったのが城であった。「外国税額控除がおかしいって言ってるけど、二重課税をふせぐ当たり前の制度なんだぜ!」的なことを主張しているんだが、では城はその控除の影響をのぞいた比較を公表するのかと思いきや、結局は城自身も外国税額控除ふくめた軽減制度全体を適用したあとの、実際に払った税金額を比べているし、政府税調や経済産業省の試算をはじめとして世間一般でもそういう比較(外国税額控除や各種の軽減税制の影響を考慮する)は当たり前のことである。共産党がとんでもないインチキをした、ということではなく、普通の試算である(共産党の外国税額控除論については後で書く)。

 大事なのは、実際の税負担が他国と比べて重いのか軽いのかということだ
 だから、細かく理屈でつきつめると、共産党は、「日本の大企業の税負担は表面の税率ほどじゃないんだ!」と言うだけではなくて、他国との比較まですることが確かに求められる。欧米先進国の実際の租税負担率をあげて「ほらこんなに少ないでしょ!」と。
 志位和夫は、別の場所で

大企業の上位100社の法人税の実質負担率はだいたい30%で、ヨーロッパと同じ水準なんですよ。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-07-01/2010070106_01_1.html

と述べているので、試算はしてるんだろう(もしくは資料は持っているんだろう)。知らんけど。*1
 だけどもテレビ討論なんかではインパクトのある表現が必要になる。
 数字で「ヨーロッパの先進国と比べても、それほど高くありません」などというよりも、「40%っていうけど実際にはソニーなんか12%ですよ。メガバンクなんか1円も払ってませんよ」とかいう方が耳に残る。まあそのへんは別にいいだろ、芸風じゃん、と思う。

 もっとも、さらに細かく理屈でつきつめるならば、共産党側にも言い分があろう。「いやいや。『日本の大企業の税負担は表面の税率ほどじゃないんだ!』と言うだけではなくて、税と社会保険料とあわせた負担の国際比較はちゃんと言ってるじゃん!」。ああ、たしかに……。

 城も外国税額控除の話だけで終われば、ただの言いがかりだったのだろうが、城自身の試算もちゃんとそのエントリで公開している。

 いずれにせよ、冷静に見てみれば、共産党も「税と社会保障負担分をあわせた負担比較」は述べているし、城は城でデータは出しているのである。


法人所得課税だけでみると確かに高そうだ

 問題の原点にかえろう。
 一体、日本の大企業もしくは企業の実際の税負担は、他国と比べて重いのか軽いのか?
 城は「高い」という試算を出している。ただ、こちらはどこまでの企業を範疇にふくめて、赤旗と同じ7年分のデータでやったのかどうか書いてないので、微妙なのだが(そのあとの電機分野の比較は明らかに赤旗とは別のやり方で比較している)。
 政府税調の出した資料、というか元ネタはOECDであるが、これでも法人所得課税についてだけいえば、そして分母を税引前当期純利益ではなく国民所得比にしているが、名前があがっている国の中では一番高い。

20100708012634

 さらに、ちょっと前であるがOECDの2006年の資料(「REVENUE STATISTICS1965-2005」より2004年の数値)では、GDP比で日本3.8、アメリカ2.2、イギリス2.9、ドイツ1.6、イタリア2.8、フランス2.8となっており、やはりこの中では一番高い。
http://www.pref.kanagawa.jp/kenzei/kaikaku/working-houkoku0706-9.pdf

 しかし、ここに条件をくわえると、様相が少し違ってくる。


国際競争の激しい分野では同じくらい

 「国内でずーっと内需に張り付いてベターっとしていそうな企業をふくめても意味ないんだから、国際競争が激しくなりそうな分野を比較すべきだよ!」という声があるのだ。
 だから、政府や政府税調も、こうした分野だけ抜き出して比較をおこなっている。少し古い2005年の経済産業省の資料では

法人所得課税に係る税負担率(支払税額の税引前当期純利益に対する比率)を比較すると、政策減税による負担軽減効果が無ければ、我が国はいずれの業種においても先進各国と比べて高い水準にあります

http://www.meti.go.jp/press/20050428007/050428tax.pdf

と述べつつも、

平成15年度に整備された研究開発促進税制及びIT投資促進税制の効果により、自動車産業、鉄鋼業、情報サービス業など、特に国際競争に直面し、今後の成長・発展が見込まれる産業において、40%前後の高水準にあった法人所得課税負担率が大幅に低下し、先進各国と比べても遜色の無い水準となっています

http://www.meti.go.jp/press/20050428007/050428tax.pdf

と分野を限定した場合、評価を変えている。

 この数値は最新の政府税調のデータでも同様の傾向が見受けられる。

平成22年度税制改正の大綱 参考資料(6/6):財務省
http://www.mof.go.jp/genan22/zei001e.htm

 政府税調は自動車製造業、エレクトロニクス製造業、情報サービス業、金融(銀行)業の4つをあげて法人所得課税の比較(分母は「税引前当期利益+社会保障負担」)をしているが、まあ総じて似たようなものである。
20100708012635

 共産党がいつも持ち出すデータは、今ぼくが最後に紹介したデータに、社会保険料負担を加味したもので、自動車製造業やエレクトロニクス製造業では、日本はドイツやフランスの7〜8割程度である。共産党の試算ではなく、これが政府税調の資料として出ているのである。


そもそも法人所得課税だけの比較っておかしくない?

 さらに興味深いデータがある。

法人課税の負担水準に関する国際比較について - 井立雅之(神奈川県総務部税制企画担当課長)http://www.pref.kanagawa.jp/kenzei/kaikaku/working-houkoku0706-9.pdf

 神奈川県の県庁の総務部税制企画担当課長が書いた論文がネット上にあるのだが、「企業が税負担が高いからどっかいっちゃうっていうけど、なんで所得課税しか問題にしないの? 税金の負担全体を問題にすべきじゃねーの?」という観点から、たとえば事業税なんかをくわえた負担比較をしている。
 日本では所得課税になっている事業税(事業をすることにかかる税金)は、大陸ヨーロッパでは一部が外形標準(たとえば土地や建物があることをもって事業をやっている証拠にしてそこに税金をかけること)になっているのだ。
 事業税(企業課税)を加えるとGDP比では日本3.8、アメリカ2.2、イギリス2.9、ドイツ2.1、イタリア5.1、フランス4.3となる。法人所得課税だけだと日本が一番高かったのに、事業税を加えるとイタリアやフランスの方が高くなるのである。

 この論文がさらにユニークなのは、「じゃあ、不動産課税を加えてみようよ」「それから社会保険料負担もね」「あとアメリカとかは社会保険料がないけど、かわりに民間保険料負担しているから、そいつもね」と次々に加えて行き、最終的にはGDP比でみると、日本9.4、アメリカ11.2、イギリス8.3、ドイツ9.2、イタリア14.3、フランス15.8となり、日本とドイツを同程度だとみなせば、日本より低いのはイギリスだけになってしまうのである(ちなみに法人所得課税+社会保険料負担でのGDP比での比較では、日本8.3、アメリカ5.6、イギリス6.7、ドイツ8.9、イタリア13.8、フランス15.3である)。*2

20100708012636

 以上を総括すると、ぼくのエントリの問いにたいする答えは、

  1. 素で法人所得課税だけを比較すると日本は少し高いが、
  2. 大企業が国際競争に直面している分野についてはだいたい同じくらい
  3. ほかの税負担や社会保険料負担を入れると、欧米よりもかなり低い

という感じかな。
 ちなみに、城はアジア各国との比較をしていて、これはこれで大事なのだが、それはまた別の論点である。まずは先進各国との比較でどうかというところで決着をつけないといけない。


なんだか範囲のとりよう、という感じがしてくる

 それにしても前述の井立論文で考えさせられるのは、結局どこまでを比較すべき「負担」と数えるのか、という問題である。
 ぼくは前々から言っているが、企業の海外展開のさいに、税負担なんかはそんなに大きな検討項目じゃないし、いわんや表面的な税率(実効税率)だけあげて騒ぐのはいかがなものか、それは単なる「税金まけろ」という財界のおねだりをソフィスティケイトしただけだろと思う。
 実際、海外展開した大企業にインタビューを「赤旗」がとっているのと、経産省がとったアンケートをみると、「税負担」なんか実にちっちゃな要素でしかない。

海外“移転” 経産省例示の4社(日産、富士通など) 本紙に回答 「法人税は主な理由でない」 - しんぶん赤旗http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-24/2010062408_01_0.html

 飯田泰之は円レートだと言っていたが*3、いずれにせよ、それほど大きな考案要素だとはぼくは思えないのである。


共産党は外国税額控除制度をどう考えているのか?

 最後に、「外国税額控除制度は二重課税をふせぐ当たり前の制度なんだから、それを問題にするのはおかしい」という城の論点について。
 結論からいうと、それは共産党本部にでも聞いてくれ、ということなんだが、それではあんまりなので、国会議事録や共産党の過去の発言などからちょっとさぐっておく。
 この控除を含めて比較するのは世間の常識です、とさっきぼくは述べておいた。それはまあ前提としてほしい。
 城が気に喰わないのは、共産党が「外国税額控除制度は大企業優遇税制」と言っていることだろう。
 ぼくが調べたかぎりでは、この論点は共産党は昔から出していて、国会の議事録でそれらの主張を系統的に読んでみると、極端にいえば「外国税額控除制度のなかに大企業優遇税制がふくまれていてそれが問題だ」という批判をしているように思われる。
 たとえば1996年12月16日の参院行財政改革・税制等に関する特別委員会で、共産党の吉岡吉典は、

外国で払った税額を二重課税にならないように還付するというんですが、これは議論があるところですが細かくは言いません。しかし、ソニーの説明によっても、外国で払った税額の多くの部分はソニー本社じゃない、その子会社が海外で払った税金を日本国民から取り立てた税金で還付する、こういう仕組みで、私は外税制度をやめろと言っているんじゃないんですよ、そのあり方については絶えず検討が必要だと
 そういうことをおっしゃるなら、政府税制調査会の法人課税小委員会がこの十一月に提出した報告の中でも何カ所かにわたって外税控除のあり方、国際課税のあり方の検討について提起しているんですよ。そして、その中で、このあり方いかんによっては税制に対する国民の信頼を大きく損なうことにもなりかねないと、こう言っているんです。これうまくやらないと大変なことになるわけですよ。

とのべている。また別のところで、

最初に、経済のグローバル化というのは、これは避けられない流れだということ、そしてまた、二重課税の回避というのは国際ルールになっている問題で、それ自体は合理性を持ったものだというのが私どもの認識です

とものべている(2004年3月18日参院外交防衛委員会)。「外税制度をやめろと言っているんじゃない」「二重課税の回避というのは国際ルールになっている問題で、それ自体は合理性を持ったもの」というのであるから、このしくみの原理自体は承認しているとみるのが素直な読み方である。
 共産党が国会でしつこくとりあげるのはその体系の様々な制度である。
 いちいちその質問をここでは書かないけども、実際に払っていないのに払ったことになって控除がうけられる「みなし外国税額控除」などを問題にしている。そういうしくみが外国税額控除制度の体系の中に入っていて、トータルが問題だ、という論法である。まあだから非常に厳密に言えば「いまの外国税額控除制度体系は大企業優遇のものを少なからず含んでいるので、見直すべきだ」というふうにでもなるだろうか。

 だけどそれはあくまで推察。本当のところ、共産党本部がどう考えているのかは、ぼくも知らない。

 いずれにせよ、城は冷静に法人の所得課税負担について淡々と書けばよかったのではないか。なんで「共産党という名の貧困ビジネス」なんていう釣りタイトルを入れて、品位を落とすのかなあ。

 え? 最近「なぜ『ONE PIECE』はつまらないのか?」とかいうタイトルを書いたのはどこのどいつだって?
 違うのです。ぼくのは個人の体験につらぬかれる普遍性を考察したものであって、きわめて正当なタイトルなのです。(キリッ

*1:共産党は上記の記事http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-06-24/2010062401_01_1.html経団連幹部自身が「そんなに高くない」という発言をしていることを証拠の一つとしてよく使っている。

*2:米の民間保険料の負担については、政府税調資料にも付記されている。

*3:http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/datsuhinkon-no-keizaigaku.html