バザーでマンガを出した時にそのマンガにつけた解説・感想

1998年ごろに書いたものだとおもわれる。

 

    【プレイボール】ちばあきお
 管見だが、野球漫画の最高傑作。
 弱小チーム・墨谷高野球部が、主人公谷口の入部をきっかけにみるみる成長し、強くなっていく話。
 野球漫画というと、ど根性ものとかライバルとの対決が売り物のものが多い(「巨人の星」「ドカベン」)。しかし「プレイボール」は、相手を偵察にいって弱点を知るとか、効果的な練習を集中するとか、そういうごく当たり前の合理的・科学的なものの積み重ねの描写が実に面白い。そして、それがてきめんに相手をやっつけるので、さらに小気味よい。
 「ドカベン」はどこまでいっても個人プレーの集合だが、「プレイボール」は「チームプレー」が登場する。いまの少年漫画には少なくなった「人間共同」の姿が淡々と描かれており、貴重である。
推せん度★★★★
年配の人が読んでも面白い度★★★★


    【どんぐりの家・わが指のオーケストラ】山本おさむ
 「どんぐりの家」はもうおなじみ。
 「わが指のオーケストラ」は、戦前の聾唖教育の話。その権利の発展の歴史で、物語としての完成度も高い。
推せん度★★★
年配の人読んでも面白い度★★★★★


    Papa told me榛野なな恵
 早くに妻をなくした文筆業の父と、10歳の娘の身辺の出来事をつづった1話完結の物語。さまざまなタイプの物語があるが、本領は「日常の中にある息苦しさ」を、娘の的場知世や父親の的場信吉などが、「裸の王様」を見抜く子ども的に斬ってみせるタイプの話であろう。売りに出している本では、最後にのっている「マイ ソリテア」がそれにあたる。
 編集者の北原ひとみは、義姉にむりやり見合いをさせられる。「結婚しろ結婚しろ」「結婚しないのは売れ残り」という見えない圧力をさまざまな登場人物を使って描く。そして、北原に「それよりももっと不思議なかんじがしてしまうんです。そういう言葉はどこから来るのかしらって」というセリフをいわせる。
 この作品のアオリ(宣伝文句)はきまって「ヒーリング・ロマン」であり、そういう評価は、やはりこうした「日常の息苦しさ」をやんわりと批判してみるところからくるのだろう。第35回小学館漫画賞を受賞した。
 ある種の評論家には不評らしく、関川夏央などは「この絵空ごとは現代日本人の小さくて安手の理想の破片を拾い集め、臆面もなく貼り合わせたものである」と酷評している。実は私の妻にも不評で、「こんなガキ気持ち悪い」などといっていた。私が「女の子が産まれたら知世と名付けたい」と言ったら、激怒していた。
推せん度★★★
年配の人でも面白く読める度★★

 


    墨攻】漫画:森秀樹/原作:酒見賢一
 古代中国の戦国時代末期の話。「非戦」の思想をもつ思想集団・墨家は、けっして攻撃をせず、戦争において「守り」に徹して勝つという独自の「平和思想」をもっている。弱小国の依頼に応じ、小城の守りにでかける。これは、小国・梁の求めに応じた墨者・革離が趙の大軍を退けることに挑むところから話がはじまる。
 これまでの漫画は(横山光輝など)は、古代の戦争を大ざっぱにしか描かなかったが、この漫画は、古代の戦争の様子を実に生々しく描き出している。人がどう死ぬか、どう腐敗するかまで。また、思想集団が堕落し、「現実主義」に流されていくという様子も大事なテーマになっていて興味が尽きない。終わりが中途半端なのが残念。講談社漫画賞受賞。
推せん度★★★
年配の人でも面白く読める度★★★★



    【天才ファミリーカンパニー】二ノ宮知子
 経済の天才で冷酷?な高校生と明るいキャリアウーマンの母親のもとに、さまざまな人間がちん入して騒動を引き起こす。というときこえがいいが、作者がなにも考えず、話を気ままに拡大し、収拾がつかなくなっているだけである。
 ドラマ「あぶない放課後」の原作。ドラマになるくらいだから世間の評判は高いんだろうけど、私の漫画作品としての評価は低い。ではなぜ8巻まで買ったのか、と言われそうだが、絵柄が好きなのと、印象的なシーンが多くて、つい買ってしまったのだ。とくに、経済うんちくを語る場面や、主人公の高校生がアルバイトとしてビジネスの天才ぶりを発揮する場面が読みたくて……。もう買わない。
推せん度★★
年配でも面白く読める度★


    【ピンポン】松本大洋
 「スラムダンク」がバスケットの緊張感と醍醐味をあますところなく描いたと大評判になったが、この作品は卓球のそれ。
 天才と努力家の対比など、面白いテーマがいっぱい。
推せん度★★★★
年配でも面白く読める度★★★


    【奈津の蔵】尾瀬あきら
 有名な「夏子の酒」の姉妹編。夏子の先祖の女性が酒造りにかかわる話。昭和初期、まだ酒蔵が「女人禁制」だったころ、酒蔵に嫁いだ「奈津」が、酒造りにたずさわり夫とともに新しい酒造りにいどむ。
 「夏子の酒」では物語の推進力は、「本物の酒造り」のための障害をのりこえていくというところにあったが、「奈津の蔵」も基本は同じ。ただ前作でその障害が「農薬依存」「貧困農政」「農村の閉鎖性」などの「近代的なもの」だったのが、今回は「女性差別」「家制度」など「封建的なもの」になっている。
 酒に興味のある人は必読。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★★★


    課長バカ一代野中英次
 池上遼一という劇画家の絵を完全パロディ。この作家を知っていると面白さは倍増する。池上は、まさにマジな劇画で、しかも保守反動の権化みたいな作品を描いている。主人公の男性はつねに雄々しく、やすっぽい国家論をふりかざし、登場する女性はどんなに知的なタイプでも「オンナは最後はセックス的な存在」という女性観でつらぬかれている。石原慎太郎の世界観を漫画にしたようなもの。
 だから、私などはいつもそういう劇画にバカなセリフをはめ込んで茶化してみたい衝動にかられるのだが、本当にやって商業ベースにのせてしまったのがこの作品である。ギャグタッチの絵で描かれていたら面白くもなんともないが、池上の絵をそのまま使っているがゆえに成立している作品。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★


    百日紅杉浦日向子
 「どういう年齢でも読めて、いちばん面白い漫画は」と聞かれたら、文句なくこれをあげる(年少者にはちょっとつらいが)。
 葛飾北斎のエピソードや弟子たちとの日常をつづった物語。作者は、NHKコメディー「お江戸でござる」の解説者をやっているので知っている人も多かろう。
 面白いと思った人は、同じ新潮文庫の「百物語」をおすすめする。
推せん度★★★★★
年配でも面白く読める度★★★★★


    【SEED(シード)】漫画:本庄敬/作:ラデック・鯨井
 主人公が植物の魅力に魅せられ、農業開発コンサルタント会社の社員として、世界中をかけまわり、そこでおきている環境破壊にいどむ。世界だけでなく、半分は日本での話で開発やダイオキシンの問題もとりあげられる。
 原作は「マスター・キートン」を書いた人で、物語としての完成度は高いと思うのだが、漫画化するさいにやや減殺されてしまっていると思う。ネーム(セリフ)が長いとか。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★


    【神童】さそうあきら
 天才ピアニスト少女・うたと、落ちこぼれ音大生・ワオの交流を中心に、うたの音楽が究極に完成するまでを描く。私泣きました。
 音楽を漫画で描くのは「タブー」の一つで、成功例が少ない。どうやって音楽を描けばいいのかわからないからだ。「ポロロロン」と擬音で書く、音符で書く、省略する、などいろいろ試みられては失敗している。作者は、これを聴衆の反応や聴衆のなかにうかびあがったイメージを絵にすることで見事にこの課題を果たした。美空ひばりの「川の流れのように」まで絵にしてしまった。
 「美味しんぼ」が、料理の味を言葉だけで描こうとして、漫画としてはおそろしく貧しい表現になっているのと比べてみるといい。
 さそうあきらは音楽を描かせると一流なのに、他の作品は最悪である。これのほか、「愛がいそがしい」以外は読まない方が無難。
推せん度★★★★
年配でも面白く読める度★★★★


    カイジ福本伸行
 「賭博黙示録」と題したこの作品を売り出すことにためらいはあったが、あえて出した。
 借金を背負い、そのカタに、船に乗せられ、「ジャンケンゲーム」というしごく単純な原理のサバイバルゲームで勝ち抜くことを強いられる。勝てば娑婆へ生還、負ければどこかの国へ「売り飛ばされる」という状況。
 都知事選に出た三上満さんが、はげしい競争とサバイバルのなかで「生き抜く力」を説く「中教審」を批判していたが、この漫画は、「他者はすべて敵」、一片の信頼や温情もすべて命取りになるという世界観でつらぬかれている。「人間共同」は、そのギリギリのなかでしか生まれないと説教する。こういう話が執拗に出てくる。
 こういう世界観とむきあってみるのも意味のあることだと思う。
 ゲームの進展は面白くないとは言わない。読ませる。
推せん度★★
年配でも面白く読める度★★★


    【ムカデ戦記】森秀樹
 武田信玄に服する「ムカデ衆」の話。金山を掘り当てる才能をもった職能集団で、武田家の財源の死命をにぎっている。
 ただ単純に戦記物として面白いが、この作者の前作「墨攻」ほどは面白くない。
推せん度★★
年配でも面白く読める度★★★★


    【昭和史】水木しげる
 水木しげるの自伝。読ませどころは、水木自身のマイペースさが、なんにも適応できず、学校や職場からつぎつぎ排除される話と、彼自身の従軍期である。
 「クジラは昔陸にいたか」というテストの問題にえんえんと答案に自説を展開し裏面まで使ってSF小説を書いてしかられたり、制帽をかぶってこずに軍事教練をやる軍人に「なぜ非常時にかぶってこない」と前にだされてつるしあげられても「きょうは暑かったもんで」ととぼけたりする。
 また、戦地の描写は圧巻で、南方に出征させられ、なんども死地にとびこむ。崖にぶらさがって敵が通り過ぎるのを待つ。「僕はあのときのヒューヒューという風の音を一生忘れない」。まちがって「玉砕」が打電され、生還したために、死ぬまで帰るなと再度玉砕へむかわされる。マラリアで腕が化膿して切り落とされ、もう墓穴までほられる。などなど。
 「もしあのとき玉砕していたら」という想定で、結末だけを変えたのが「総員、玉砕せよ!」である。
 かんじんの4巻が欠落しているが、自分で買ってくれ。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★★


    【SWEETデリバリー】鴨居まさね
 「いまいちばん好きな漫画家は」と聞かれたら、この人をあげる。
 手作り結婚式をプロデュースする会社の話で、1話完結方式。物語の軸はいくつもあって、社長のマコトと奥さんのミヨコのどちらとも働いているが、この2人のつきあい方が一つ。「カップルの幸福」というのは、ふつう描くとベタベタに甘くなって「勝手にやってろ」となるが、ここでは、なんというかスンナリ入ってくる。「いいカップル」というの描かせれば、随一の漫画家であると思う。
 もう一つは、社員のデコラちゃんが仕事を覚えたり、恋愛に失敗する話。フラワーコーディネートをあとからやってくるベテラン社員にまかされて泣く話や、花火をうちあげる資格をとる話などがある。この彼氏(旅行社員)が議員の海外視察に添乗し、売春婦を呼ばされることになって、ケンカし、首になるという話もある。
 ぜんぶ20代後半の男女が織りなす物語なので、この世代にはエピソードや葛藤が心のヒダに滲みいるように効いてくるかもしれないが、それ以外の世代にはよくわからないかもしれない。
推せん度★★★★★
年配でも面白く読める度★  7巻の感想はこちら


    こちら葛飾区亀有公園前派出所秋本治
 人気投票制度の「少年ジャンプ」で100巻をこえて続いているという長寿人気漫画。
 厳格なイメージのはずの警察官が、型破りなハチャメチャぶりを披露する。
 当初のものからちょっとした路線変更があり、いまはSFまがいのハチャメチャぶりをやったり、おもちゃやバイクなど趣味についてのウンチクとあわせて展開するなど、まあ、早い話「子ども向け」になっている。それが人気の路線でもある。
 しかし、もともと、「正義」「堅実」という警察のイメージを背景に、その日常生活や論理にかなり密着しながら、「型破りの警官」を描いていた。パトロールや巡回の具体的な様子や地域訪問、学校との連携、訓練などがあって、そのなかで無茶苦茶をやるという話が多かった。私にはこちらのほうが面白くてならない。
 あえて初期の巻を売りに出したのもそういう理由である。
 この巻でも、小学校の寒中水泳大会に「地域住民とのふれあい」として参加し、主人公の両津が泳ぐハメになり、両津がいやがって後輩警官の中川を無理矢理泳がせるシーンがあるが「なに! きさま先輩のいうことに反抗する気か!? 警察社会において先輩のことばは絶対だ! 先輩が『白いカラスがいる』といったら、『あっ、あそこにも白いカラスが……』ぐらいいうもんだ!! それがこの世界だぞ!! なぜ『泳げ』といわれて喜んで『ハイ』とすなおにいえんのだ!!」といって首をしめるのである。
 しかし、神奈川県警の事件にみられるように、現実は、このような「漫画」をはるかにこえて「漫画的」な事態が横行している。「漫画」は漫画であるうちは喜劇だけど、それが現実のものになったら極度の悲劇というほかない。
 ちなみに、葛飾区には「亀有公園前派出所」は、ないそうである。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★



    【摩天楼のバーディー】山下和美
 「欲望が渦巻く大都会。そんな街で金さえもらえれば、どんな仕事でも請け負う便利屋、山根トキオ。通称バーディー。ある時はハードに、ある時はロマンチックに、繰り広げられる彼の息もつかせぬ冒険に超圧倒のダイナミック・ラブ・サスペンス!」というのがアオリ(宣伝文句)。
 あまり説明を要しない。
推せん度★★★★
年配でも面白く読める度★


    人間交差点(ヒューマンスクランブル)】作:矢島正雄/画:弘兼憲史
 オムニバス形式。
 そうですなあ、都会で恋に破れた女が見返してやろうと田舎で観光振興の企画を必死でつくる話とか、放火事件の参考人であるホームレスが「マンジュウ」ということばにしか反応しない謎とか、絵柄もふくめ、高度成長時代のなつかしいテレビドラマといった感じです。だから「題からして安っぽい3文ドラマ」だという人もいるんでしょうが、私は不思議と好きです。
 漫画作者の弘兼は、政治プロパガンダの「加治隆介の議」や大企業提灯持ちの「課長島耕作」みたいなのじゃなくて、こういう短編でいいの描くんですよねえ。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★★★


    遥かな町へ谷口ジロー
 中年サラリーマンが突如中学時代の自分にタイムスリップして、とまどいながら中学生活を送り、同時にそのとき失踪した父親の気持ちをさぐるという話。
 焦点は、失踪してしまう予定の父親の気持ちを、少年の時は許せなかったが、中年だった自分の気持ちでもう一度推し量って、理解してしまうというところにあるのだが、私は、「いま中学生にもどったら何をやるか」という話題の方が断然面白く、すらすらと勉強をやってのけクラスで尊敬される、酒を大人っぽくのんでみせる、自由自在に運動できる体を満喫する、未来の話題を予見してみせる、そして……なによりあこがれだった女の子に大人っぽく接近してみるのである。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★★


    【OSHIGOTO】しりあがり寿
 まあ、どうということない、しかし笑えるギャグ漫画です。
 この作者は、「弥次喜多IN DEEP」とか「おらあロココだ!」とか前衛的なギャグが多いんですが、この作品はどなた様にも読んでいただけます。まあ、でもやっぱり青年以外にはキツいかなあ。
推せん度★★
年配でも面白く読める度★★


    【遠くにありて】近藤ようこ
 東京から田舎に教員としてUターンした主人公が、東京へのあこがれを捨てきれず、田舎に埋もれていくのを恐れる。ようやく主人公は同級生の青年との結婚を決意するが、家族の写真をおさめたとき、自分が地方生活ではなく家族の解体を恐れていたことに気づく──というのだが、私などどう読んでも、家族うんぬんではなく、都会の華やかさやそのなかで自分の才能を開花させることなく、地方生活に平凡に埋もれていくことの恐ろしさの方がずっと身にしみた。あまりに共感して泣いてしまい、セリフを日記に書き付けたぐらいだ(実話)。
 この作品は地味だし、しかも20代にしか共感できないんじゃないかなあ、と思っていたが、最近文庫で復刻したうえ、評論家の関川夏央が絶賛していたのも見た。「近藤ようこは地味な作家だ。初版は五千から二万部、マンガとしては相当に低部数だが、彼女の作品は堅実なファンを持つ文芸書のようにもとめられている。そのような、マンガ特有の大量販売とは無縁の作家もいて、現代日本の有力な表現分野としてのマンガ世界は成り立っている。ただ、作品の売場がマンガのそれに限られていることは、彼女の作品の水準の高さからいっても大いに惜しむべきである」(関川「知識的大衆諸君、これもマンガだ」より)。
 この作者の商業的成功は「ルームメイツ」という作品。高齢者の女性3人が力をあわせてくらしはじめるという話でドラマにもなった。興味のある人はご一読を。
推せん度★★★★
年配でも面白く読める度★★★


    【ホライズン・ブルー】近藤ようこ
 幼児虐待を、親の側の生い立ちをたどることで描いた作品。
 幼児虐待の報告漫画「凍りついた瞳」のように、暴力の実相を克明に描いたりするドキュメントタッチではない。その描写はほとんどない。
 主人公が母親からうとまれ、美人で母からも世間からも好かれる妹へのコンプレックスをエピソードでつづる。
 近藤ようこは率直に言って画力はないが、それを強靭な物語性とそれをささえるセリフで補って余りある。「私は誇らしかった。猫が獲物を誇るように誇らしかった」「あたしはあんたがこわかった……あんたのさびしい気持ちがわかる分……自分の母親としての自覚のなさをあんたに見透かされているような気がして──」「あの……今度の土曜 人を連れてくるから……男の人/罪を告白しているような気がした」。
 漫画ってつくづく絵じゃないのね、と、この作者と青木雄二を見て思うのである。
推せん度★★★
年配でも面白く読める度★★★★


    アトピー・ウオーズ】
 娘がアトピーであるとわかり、その治療にたどりつくまでの悪戦苦闘を描いたノンフィクション。ステロイドしかすすめない医者に不信感をもち、情報にふりまわされ、娘の容態に一喜一憂し、最後に自然治癒力にたどりつく。
 「π処理水」なる「あやしげな」水を飲んで治癒にむかうという話もでてきたりするし、ほんとうにこういう結論でいいのか不審な思いも残るが、なにかを売り込もうとか宣伝してやろうとという意図がなく、自然に思ったまま、あったままを描いているので、たいへんおもしろくしあがっている。政府批判や医療界批判もとびだし、若いお母さんが子どものことを真剣に思いながらこうして政治に接近していくのかなあと思った。
 実は、この本の解説をある医師が描いている。作品で批判されているステロイドを用いて治療を行っている医者(直接この人が批判されているのではない)で、作者の結論などにも疑問をもっているのだが、なぜ解説を書いているのかというと「それは、このマンガが面白かったからです。まず大原(作者)のように一生懸命病気に取り組むと、今の日本の医療の問題点がちゃんと見えてくるんだなと思わせる部分が随所にありました。それが興味深かったのです。また世間のお医者さんたちがどんなふうに患者さんに接しているのかを知ることもでき参考になりました。」
 いま、こうした社会問題を正面から描く女性誌は、有力漫画誌ではこの作品が連載された「オフィス・ユー」か「ユー」しかない。「生きがい」「仕事」という分野では男性誌をはるかにしのいでいるのになあ。
推せん度★★
年配でも面白く読める度★★★★