旧ホームページから移転

花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』

好きな女がこっぴどくヤラれてしまい、その復讐をひ弱な主人公が果たそうとする――いよいよ『宮本から君へ』へ似てきた。 宮本から君へ 1 (SMART COMICS) 作者:新井 英樹 スマートゲート Amazon 知らない人のために書いておこう。 『宮本から君へ』とは、新井…

佐藤和夫『仕事のくだらなさとの戦い』

本書の中心点は、効率優先の近代的な労働を批判し、労働の核に「コミュニケーション」をおくことによって、人間らしい労働(心の生活のための労働)の回復をめざす、というものである。なんかこう書くと、ものすごく平凡な本みたいだなあ。 仕事のくだらなさ…

朔ユキ蔵『ハクバノ王子サマ』

※若干ネタバレがあります。 奴隷のように働かされるサラリーマンをやめて、私立の女子高校の教師として再就職した25歳の小津晃太朗が主人公。小津には、高校に勤めたのにあわせて外国に1年間行ってしまったカオリという、美人(らしい)婚約者がいる。 ハク…

『このマンガを読め! 2006』

漫画のムックにたいする注文の原点 いまから10年ほど前。 ぼくがまだいまのような、ウェブで感想を書きなぐるというヤクザなことをしていなかったとき。漫画のランキングや年鑑を読むとその「専門家臭」に不満があったものである。 市井の実感とかけ離れたラ…

川谷茂樹『スポーツ倫理学講義』

ぼくが小さいころ、兄と卓球をしていて、縁をねらった球をうつと、「丸紅打ち」と兄に非難された。打球自体はセーフなのだが、ボールが縁にあたると、異常な角度をつけてボールが飛んでいき、ほぼ確実に打てなくなる。 当時ロッキード事件がおきており、総理…

福満しげゆき『僕の小規模な失敗』

福満しげゆき本人の自伝的漫画。 工業高校を中退。女性にも縁がない。 送る漫画もボツ。「まったくホントにぜんぜんダメだった…」。 僕の小規模な失敗 (ヤングマガジンコミックス) 作者:福満しげゆき 講談社 Amazon 「僕はそもそも何が描きたいとかそーゆう…

きらたかし『赤灯えれじい』

一週間ばかり「矢沢あい」漬け。 来る日も来る日も「みんな…大好き!」「ねえハチ あの頃のこと覚えてる?」とかいう世界に浸っていて、脳が砂糖菓子のようになってしまった。 そこへきて、この『赤灯えれじい』だ。 海外でバタくさいものばかり食べていて、…

矢口高雄『9で割れ!』

矢口高雄『9で割れ!』は、高度成長期、矢口が漫画家になる前の銀行員時代のことを描いた自伝的漫画である。 9で割れ!!―昭和銀行田園支店 (1) 作者:矢口高雄 eBookJapan Plus Amazon 銀行がシャッターを閉めてから出納と伝票の結果をあわせて一致してい…

岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』

あるMLで、ぼくの「フリーター漂流」についての解説の感想がのっていて(ぼくの解説についてではなく、おそらく番組への感想であろうけど)、“自分より下がある、という安心を与えるもの”などという感想があったのを見た。 苛酷な搾取にさらされる請負労働…

NHKスペシャル「フリーター漂流」

土曜日(2005年2月6日)に放映されたNHKスペシャル「フリーター漂流」を観た。 フリーター漂流 作者:松宮 健一 旬報社 Amazon フリーターのなかでも、モノづくりの現場での「請負」と呼ばれる種類の労働にしぼって描いたもので、監督官庁もなく法規制も弱い…

小川洋子『博士の愛した数式』

やあ! よいこのみんな。夏休みの宿題はちゃんとやってるかな? そんなわけないよね! きょう(8月14日)あたりが、ハッキリ言って、焦りを覚えはじめる、まさにそのときだよね。 そんな後先を考えずに「キリギリス」生活を送ってきた君のために、きょうは…

中沢新一『はじまりのレーニン』

知り合いの左翼の女性に、「もし子どもが生まれたらどんな名前をつけたいか、あるいは、その名前にどんな人生の期待をこめるのか」と聞いたとき、彼女は「この世界が美しいと思ってくれる子になってほしい」と答えた。 いい答えだ、と感心した。 左翼や共産…

中村隆英『昭和経済史』

講義をまとめたシリーズで、口述の親しみやすさと、それが卑俗に流れず、その道の権威らしく、本質的な問題を実に簡単明瞭に、しかもわかりやすい例で解説する。 たとえば高度成長期に電力の発展がおいつかずに、それがボトルネックであったことを、“計画的…

J.ジグレール『世界の半分が飢えるのはなぜ?』

入門の本はないかとおもって、よく、子どもむけの本を買う。 子どものむけの本は、「わかりやすい」、ということもあるが、しばしば「本質的」であるからだ。 世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実 作者: ジャンジグレール,J…

久野秀二「環境問題と史的唯物論」

ある有名なモノ書きのメールに、「マルクスは合理的な資本主義をめざしていたと思う」という一文があった。それはちがうだろう。 この人は、おそらく旧ソ連の実態から直接にマルクスをイメージし、「どちらも同じ19世紀思想」と考えて、「大量生産、大量消費…

北原みのり『フェミの嫌われ方』

フェミニストである筆者・北原みのりが批判する、つんく『LOVE論』をまずごらんください(北原の引用より孫引き)。 「おかんな女の子〔母親っぽい女、の意〕とつきあったら、きっと一緒にご飯食べるときなんかも知らないうちに人の箸を取ってくれちゃったり…

浅尾大輔「家畜の朝」

第35回新潮新人賞を受賞した小説(「新潮」2003年11月号に掲載)。こういう人。 言葉というものを、貧しいながら、多少は武器にできるおかげで、ぼく自身が救われた、ということは少なくない。言葉によって、世界というものを再構成できるからだ。 もう少し…

橋本毅彦・栗山茂久『遅刻の誕生』

ああ、もう。ぼくにとって、遅刻は高校以来の宿敵だ。 長時間電車通学によって始まった「時間との闘い」は、やがて、小中学校時代は(わが家において)絶対に許されなかった「遅刻」というものを体験させた。 次第にひどくなっていくぼくの遅刻。日中はほと…

司馬遼太郎『覇王の家』

愛知出身なのだが、「ああ、名古屋のかたですか」などと言われると、腹が立つ。 名古屋じゃない。尾張ではない。三河の出なのだ。と、心の中で小さく訂正する。 親戚が名古屋にいるが、話をするほどに、言葉がちがう。日本全体からみれば、やはり名古屋も中…

ポール・ケネディ『大国の興亡』

ぼくが参加している社会人ばかりの自主ゼミ(ひとり学生さんがいるが)で、ポール・ケネディの『大国の興亡』を読むことになった。というか、それはサブテキストで、メインは、石坂・船山・宮野・諸田の『新版西洋経済史』(有斐閣双書)なのだが。つい最近…

小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉』

「藤間はこの報告で、『民族的なほこりを全民族に知らせて、わが民族が自信をもつ』ために、記紀神話に登場するヤマトタケルを『民族の英雄』として再評価することを唱えたのである」 ここに登場する「藤間」とは、どのような政治的立場の人か、あなたは想像…

小原愼司『菫画報』

佐倉高校の新聞部の星之スミレを主人公とし、その友人琴子、後輩の上小路、先輩の「部長」などとの日常(非日常)を描く。1話完結形式。 作者は黒田硫黄の友人だときくけど、黒田硫黄が大学の寮的空気を濃厚にまとわせて登場してきたのにたいして、小原愼司…

深見じゅん『おとぎ話つづく』

登場人物の服装にどれくらい気をつけているか、ということは、女性漫画家によってずいぶんちがうと、つれあいから教えられたことがある。 もともと、男性系アニメに出てくる女性の服装とか髪型があまりにも浮き世離れしていて、街でこんな格好をしている若い…

ほったゆみ・小畑健『ヒカルの碁』

ぼくは少年漫画は長い間ひかえてきた。しかし、小学生のあいだに碁ブームを巻き起こしている漫画として、この『ヒカルの碁』だけは一度読んでみようと常々思っていた。が、なかなか手がのびなかった。 ヒカルの碁 全23巻完結セット (ジャンプ・コミックス) …

山本文緒・海埜ゆうこ『紙婚式』

『紙婚式』のオビにはこうある。 紙婚式 (Feelコミックス) 作者:山本 文緒,海埜 ゆうこ 発売日: 2003/10/08 メディア: コミック 「結婚しました。だけど…… 結婚は幸せばかりではなく、 辛いことばかりでも、ない。 ずれながらも交錯する、6組の夫婦それぞれ…

たなかじゅん『ナッちゃん』

(第7巻までしか読んでいないという前提ですが) 学生のとき、小関智弘のルポ『春は鉄までが匂った』を読もうとして、挫折した。しかもかなりとっかかりの部分である。あのとき、思想とか世界観とか、いわば「形而上」のものに心を奪われていて、現実の物質…

あずまきよひこ『よつばと!』

榛野なな恵『Papa told me』にたいして、関川夏央は、妻を亡くした文筆業の父と娘、という人物配置に次のようなコメントをくわえている。 Papa told me 1 (マーガレットコミックスDIGITAL) 作者:榛野なな恵 発売日: 2016/12/01 メディア: Kindle版 「娘は、…

とよ田みのる『ラブロマ』

ぼくの高校時代の友人に、好きな女の子に校庭で「好きだー」と大声で叫んだやつがいた。 ぼくは、この感性を、「キモい」といって遠ざけるほど冷笑的に見ることはできないし、かといって「それこそ正しい青春だ」と過度の思い入れを託すこともできない。その…

つげ義春『リアリズムの宿』

ここでとりあげた「リアリズムの宿」というのは、主人公の言い分を借りれば、主人公は鄙びた秘湯をたずねたりする旅行が好きなのですが、そこにその土地の“生活の臭い”がしてしまうことをたいへんきらっていて、その生活の臭いを「リアリズム」と主人公独特…

セミョーノフ『人類社会の形成』

藤子・F・不二雄のSFに、性欲と食欲の社会的取扱が逆転した社会になる、という話がある。食堂で食欲が公然とした社会的サービスとして支えられるように性欲が公然のもとなり、食欲の充足が羞恥をもって社会的に取り扱われる。 気楽に殺ろうよ: 藤子・F・不…